ZOROPPE

いつもじぶんにごくろうさん

息子がムケた

昨日は息子と二人きりで秋葉原ヨドバシカメラの屋上にあるバッティングセンターに行った。

ピッチングマシンのモニタに現役プロ野球選手が映るやつで巨人の内海と対決した。20球でヒット性の当たりは2球くらいしかなかったがなかなかいい汗をかいた。

三歳の息子もヘルメットをかぶって初挑戦。もちろんひとりでまともにスイングできるはずもなく、私が背中から覆いかぶさるようにしてバットを一緒に持って振っていたのだが、たまたま一球ピッチャー返しのような鋭い当たりがあって息子はとても興奮していた。

実はここ半年くらい、息子はなにかにつけて「おとうさんヤダ!」が口ぐせだった。おそらく、一度大いに叱って顔をぴしゃんと叩いてしまったことがきっかけだったと思う。

あれだけ「おやすみのときはおとうさんがうんてん!」とはしゃいでいた自転車も、ちんちんを洗うと「くしゅぐったい!」とげらげら笑ってたお風呂も、それ以来「おとうさんヤダ!」状態だった。とにかく私との行動を(マンション隣のコンビニへ行くことさえ)拒否するようになった。

そんな息子の態度に私も私でふてくされてぷいとひとりで出かけたり、手をあげてしまった自己嫌悪と重なってかなり落ち込んだこともあった。子どもに媚びてまで仲良くする必要があるのだろうか? これも子離れの通過儀礼なのではないか? 同じ三歳の男の子をもつ同僚にお悩み相談メールまでしたくらいだ。

なんで、おかあさんばっかり……

すると妻は言った。

「しょうがないじゃん、私のほうが、長く一緒にいるんだから」

……。

だからということでもなかったのだが、お盆休みはほぼべったり息子と行動を共にした。お盆明けの一週間もたまたま仕事がヒマだったので定時であがって保育園へ迎えに行き、帰り道は決まって立ち飲み屋に寄って枝豆を食べるという息子の大好きなゴールデンコースを三回もキメた。しかも先週末は伊東への一泊旅行までキメた。ハトヤにキメた(お約束)。

果たして、おばあちゃん家以外で初のお泊まりと念願の新幹線初乗車を経験した息子は、その日を境に私に対する言動が目に見えて変わった。

「バッティングセンターに行きてーなー」という私のひとりごとに、昨日はまず息子が食いついた。

「ばってぃんぐ……?」 「野球だよ。カキーンって」 「いきたい!」

コンタクトレンズを買いたいけど診察でかなり待たされるから(息子を)どうしよう、と妻がぼやく。

私はおそるおそる息子に聞く。

「じゃあ、おとうさんとふたりで、バッティングセンター行くか?」 「(やや困惑)……おとうさんと? ふたりで?」 「うん、おかあさん、買いものしたいんだって」 「んー……どうしようかなー」 「……?」 「じゃあ、おとうさんとふたりでいく!」

そのとき私は心の中で叫んだ。

よっしゃあ!

息子と二人きりで外出するのは(保育園帰りの立ち飲み屋を除いて)ひさしぶりのことで「やっぱり帰りたい」「おかあさんがいい」だのといつ言い出すかといささか緊張したが、それは杞憂に終わった。

信号が変わるたびに「青です! 赤です!」助手席で私をナビる楽しみを見つけた息子は、行き帰りのクルマの中でもほとんどしゃべり通しだった。

私は確信した。息子のなにかがムケた。いや、もうズルムケと言っていいほどにムケた。ハトヤでムケた。

昨日の夜は一緒に風呂にも入った。半年ぶりだ。ハトヤでなにかがムケた息子だったが、ちんちんは当然ムケてるはずもない。

湯船に浸かりながら「おとうさんのちんちんやっぱりおおきいねー」と言う息子に、私は父親として、威厳に満ちたズルムケの股間をいつもより長めに見せてやったものだ。