上野でハムカツを喰らう
先週から息子がなにかにつけ「パパ、いやだ!」と言う。それはもう赤子のぐじゃぐじゃっとしたもの言いではなく「パパ、い・や・だ!」とはっきり言う。
こいつは相当なショックだ。
今日は近所のファミレスで昼食後、家に戻って着替えさせようとしたら「パパいやだ! ママ(助けて)……」となったので、そこで私はなにも言わずにぷいと外に出た。
玄関のドアを締める間際に「パパ(どこ行っちゃうの)……」と半泣きの息子の声が聞こえて一瞬、戻ろうとしたがそこはあえて心を鬼にした。
大人げないと思われるかもしれないが、その前に妻にトイレの電気をつけっぱなしにしてたのをとがめられてふてくされていたことが、私をそうさせたのかもしれない。
冷たい雨が降る中、上野に行こうと思った。前から欲しいと思っていたチノパンを買いたかった。
上野に向かう電車に乗っているあいだ「子供が可愛いのは三歳くらいまでよ。それからはもう生意気なだけで……可愛いのはわかるけど、うまく子離れしないといつかガツンとやられちゃうんだから(笑)」と葛西のデリヘルで働く人妻が手でビオレ泡立てながらこぼしていたのを思い出して、ホントにそうだなあと思った。俺は俺。息子は息子だ。そっちの息子じゃなくてな。
上野のアメ横で目当てのチノパンを買って、裾上げをしてもらってるあいだに、先般「タモリ倶楽部」でハムカツが美味い、となぎら健壱に紹介されていた立ち飲み屋に入った。東京ウォーカーと王様のブランチは信じないけど、なぎら健壱とモヤさまは信じる質だ。
寒いしぜんぜんお腹も空いてないしでなかなかハムカツは進まなかったけど(まあまあ美味しかった)新しいチノパンに合うベルトと靴下も買ってしまおうかなあ、そしたらシャツと靴も欲しいなあ、などと預金残高に新年度の昇給を加味した手持ちと物欲のシーソーゲームを、失恋やもめ風情の顔を取り繕って立ち飲みながら、店のテレビの競馬中継をBGMにたたずむ小一時間は、なかなかいいひとときであった。
ポテサラ入りハムカツ300円と瓶ビール350円を二本で〆て1000円。