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いつもじぶんにごくろうさん

えらばれしもののふのゆくみち #3

【2005年6月19日の日記を再編集したものです】 »「えらばれしもののふのゆくみち #0」から順にお読みいただくとそこそこ話が楽しめます。

2005.6.14 tue. 06:31

秋田発大館行き普通列車が、ホームで出発の時を待っている。乗車時は自らボタンを押してドアを開けるシステムのようだ。



とりあえず、電車で白神山地に近づいてみることにする。

近づくだけ……

そう、白神山地世界遺産登録地域は保護されているために、一般の人は立ち入れないということを、さっきみどりの窓口に置かれた無料の観光パンフレットで初めて知ったの。

いったい何しに来たんだろう、俺……

途中、五能線という単線に乗り込み……

とりあえずはあてもなく、北を目指した。

選ばれし武士たるもの、目的のすべてにおいて……

この土地の時間の流れの常に、先へ先へ、とリードし続けているのだ……





……よ、ね?

ときおり車窓から見える日本海は圧巻だった。

と言いたいところだが……

海に薄暗く映りこんだ曇天と乗客すらいない無人駅の風景……

そして、スタートダッシュが非力なワンマン列車の轟音は、俺の寂しさをいっそう募らせるだけ、だった。

途中、居眠りしつつ、各駅停車にただただ揺られること三時間……

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2005.6.14 tue. 09:28

十二湖駅で下車。

なぜこの駅で下りたのか、俺もよくわからない。

よくわからない勢いのまま、駅前に停まっていた「十二湖行き」バスに乗り込み、よくわからない俺を含む五人を乗せたバスは、よくわからない山道をひたすら登っていく。

途中、道のど真ん中でバスが停車する。と、唐突に運転手が「右手奥に見えるのが、日本キャニオンでえす……」とアナウンスする。

んだな。写真を撮るしか、ねえわな、こーなったらさ。日本キャニオンを、さ。

日本キャニオン、でえす。





2005.6.14 tue. 09:38

バスの終点は「青池」というところだった。

観光案内によると「この青池の水面はまるで青インクを垂らしたかのように青い……」というところから名付けられたそうだ。まんまだ。しかもその理由はいまだ解明されていないそうだ。

よくわからない山の上にある、よくわからない理由で青い、青池。俺は停留所から五分ほどの青池へと歩き始めた。

わお。すごい。

青池は、すばらしく青かった! と、言いたいところだが……





残念なことに、この写真の「青」こそが、俺がこの目で見た、本当の青池の「青」だった。

中学生がニセ札が作る時代だもの……。

2005.6.14 tue. 09:52

俺は足早に停留所に戻った。次に下山するバスは AM 10:00 発 。青池での滞在時間はたったの二十分。

うん、充分だ。

バス停に隣設されたお土産屋でコーヒーを飲む。こんなラフな恰好で山の上までやって来た俺を見て、こいつは何しにここへやって来たんだろうかと、店のおばちゃんは不思議に思ったに違いない。

でも、そんな小さなことなど、やがてどうでもよく思えてくる。

そう、帰りのバスを操るのは、先ほどと同じ運転手。乗客はもちろん、俺ただひとり。行きに乗り合わせた他の客は今頃、優雅に登山を楽しんでいるはずだ。

祈った。そう、俺はひたすら祈った……わかってるよね、運転手さん。帰り道はもう、停まらなくていいんだから、ね……

日本キャニオン。

時計はまだ、午前十時を回ったばかりだ。

2005.6.14 tue. 10:21

青湖からバスで再び「十二湖駅」に戻った。

さきほど、思いつきでいきなり電車を下りてそのままバスに乗り込んでしまったので、駅の時刻表で次の電車の時間を知って呆然となる。

秋田方面に戻る列車は、約二時間後……。

神のあまりの仕打ちに崩れ落ちそうになったちょうどその時、逆の青森方面に向かう列車がホームに入線してきた。

乗るべきか、乗らざるべきか……。

が、俺はなぜか立ちすくんだまま身動きがとれなかった。

そのまま青森行き「リゾートしらかみ1号」は駅を離れて行く。

秋田方面が二時間後……次の青森方面行きは……? 

……それも、あと一時間近くある。俺はまたホームでひとりぼっちになる。

しかたなく、駅周辺を歩いてみることにした。









バスも一日二本。







とにかくここ、何もないのだ。



こんなところでぼけーーっとしているくらいなら、

電車に乗って揺られている方が、まだましかも。

とりあえずは、先に駅に来る青森方面行きの電車に乗り、目的地である秋田方面行き列車とすれ違う直前の駅まで進んでみよう。

そういえば今日はまだ、なにも食べていない。

»「えらばれしもののふのゆくみち #4」へつづく