えらばれしもののふのゆくみち #2
【2005年6月19日の日記を再編集したものです】
»「えらばれしもののふのゆくみち #0」から順にお読みいただくとそこそこ話が楽しめます。
2005.6.14 tue. 00:31
新津駅、俺、ひとりぼっち。
いや、前向きに考えれば、俺ひとりのためだけの駅。
寝台特急「日本海」は、この俺を乗せるためだけにこの駅へとやってくるのだ。
2005.6.14 tue. 01:23
そんなこんなでひとり遊びをしながら時間を潰し、ようやく新津駅に滑り込んできた、俺だけのカボチャの馬車。
それにしても運転手さん、さぞかしビビったろうね。
ええええ!? ここで乗るヤツ、いんのぉーーーーーー!!!???
おかげで20ミリのオーバーラン、だって。ぎゃふん。
マジックテープで、プライバシーも防犯もばっちり。
とにかく寝るよ。ひとり遊びもそこそこ疲れるよ。
秋田着は四時間後。いちおうケータイの目覚ましをセットしたけど……ま、寝過ごしたら寝過ごしたで、函館まで行って海鮮三昧だ……
zzz...zzz...
いやあん、着替えてこなくちゃあん、ぐふふ。
2005.6.14 tue. 04:55
いったい、どこなんだろう、ここ。
まだ就寝時間帯だからだろうか、ときどき小さな駅に停車するのだが、車内放送はいっさいない。
窓から見える景色が、遠くを見渡せる山々の緑から背の高い建物のグレーに変わり始めたころ、下車する準備をしている人間は、同じ車両の中で、やっぱり俺ひとりだけだった。
2005.6.14 tue. 05:29
東京駅を出発してから8時間半、秋田駅に到着。
早朝とはいえ、ホームを行き交う人の数に安堵。そう、駅は動き始めたばかりだ。
それにしても、俺は、今、なぜ、秋田に……?
実はひそかに企てていた計画があった……
そう、ここからは駅前でレンタカーを借りて、日本で初めて世界遺産に登録された「白神山地」へ行くのだ!
改札を抜けると、無機質な構内に人の影はまばら。
なんとなくいやな予感、する、ね……。
駅の案内コーナーへ行く……
すいません、レンタカーを借りたいんですけど……
「はい、駅をあっちに出て、階段を下りてすぐ右にあります」
どうも、ありがとうございます……
「あの……う」
はい?
「営業時間は、8時からです……」
……はあ、8時からですか……(時計を見る)いま、5時半ですねえ……
「ええ、5時半ですねえ……」
……あと、2時間半……です、ねえ……
「ええ、あと、2時間半ですねえ……」
2005.6.14 tue. 05:48
秋田駅前。
営業している店らしい店はコンビニ一軒のみ。
レンタカーは24時間借りられる……それは、衰弱しきった都会暮しの男が抱く幻想だったのか。
俺は再び改札方向に戻り、みどりの窓口に隣接された無料休憩所に入る。
自販機の「煎れたてコーヒー」のボタンを押し、ベンチに座る。
前方のみどりの窓口には男と女の職員が二人座っている。切符を買いにくる客は、右側の若い女性職員の方ばかりに行く。所在なさげな左側の男性職員が、なんとなく寂しそうに見える。
頑張れ、お前。そして……頑張れ、俺。
またなにか、ひとり遊びを考えてみる。
もう、なにも、思い浮かばなくなっている……
»「えらばれしもののふのゆくみち #3」へつづく