メンチカツ以上 とんかつ未満
お正月の残りものの高級ハム(切れてないかたまりのやつ)をどう食べよう? と妻が悩んでいたので、厚めに切ってハムカツにしたらいいと言ったら、たまのハムエッグで食べる薄くスライスされたハムしか知らない六歳の息子が「ハムカツ? なにそれちょーうまそう!」と興奮しはじめた。
以来、毎朝「きょうはハムカツ? ハムカツじゃない?」と妻に夕飯の献立を問い詰める始末。
揚げ物は週に一度だから今度の日曜日にね、とたしなめられるとさしずめ「NO ハムカツ! NO LIFE!」と言わんばかりの落ちこみようだったものだ。
果たして日曜日、待望のハムカツが夕餉の食卓に並ぶと息子はうまいうまいと続けざまにソースもつけず三切れたいらげた。
揚げたパン粉の香ばしい滋味に包まれたしっとりした肉感を噛みしめると深みのある薫りが鼻腔にふわんとひろがる。
たしかに美味い!さすがは高級ハムだ。
しかしこうも思う。
ハムカツたるもの、メンチカツ以上、とんかつ未満であるべし、と。
あきらかになにものかで「かさまし」されたようなすっかすかのハムを妙に甘い衣で揚げた300円かそこいらのふだん同僚とよく行く立ち飲み屋のそれこそが、真のハムカツなのだと。
ハムカツをえらく気に入った息子が「またこんどつくってね!」と小躍りしながら言うと、妻が「来年ね」と冷たく言い放った。
私はそれまで上野の立ち飲み屋でこっそりとたまさかのハムカツ欲を満たすとしよう。