ZOROPPE

いつもじぶんにごくろうさん

ため息をつかないためのおまじない

最近、ため息つくことが多い。

そう妻から指摘されて、ハッとなった。

原因として考えられるのは、ここのところ会社で面倒な案件が重なって息苦しい仕事のことしかない。二歳の息子が近ごろ情緒不安定なのは、そんな私のため息が影響しているのかもしれない、という話にまでなった。

うむ、それは良くないな、それは良くないな、ということで、その日は仕事帰りに立ち飲んで帰ることにした。

「ため息つかないためのおまじない。軽く立ち飲み屋に寄ってから帰るよ」と生ビールをやりながら妻にメールした。

ため息つかないためのおまじない……

我ながらなかなかポエティックなライフハックを思いついたものだなと自画自賛しつつ、もつ焼きをほおばる。

会社で溜まったわだかまりやモヤモヤしたものは、全部この立ち飲み屋に置き去りにして、生ビール二杯でさささっと自宅に戻るのだ。

ひさしぶりに息子と差し向かいで夕飯を食べなら、あー、こういうことでいいのだなー、あー、こういうことでいいのだなーと独りごちた。

「大丈夫?」と妻。

「ああ、もちろん。ため息つかないためのおまじない、してきたし……」と私。

会社は会社。家は家。もうちょっとの辛抱だからな。この案件が片付いたらどこかゆっくり旅行でも行こうな。

しかしそのあと、テレビの「踊る大捜査線」の映画を観ていたら、そのあまりのつまらなさからか、ただ酔いが過ぎたからか、とうとう会社でのグチを抑えきれず妻にぶちまけてしまった。

しかも私のグチに若干反論めいたことを言ってきた妻に腹を立ててしまい、そのうちそんな自分までもが嫌になり、結局その日はふて寝することにした。

ため息つかないためのおまじない……

だいたいおまじないなんかで世の中うまくいくなら苦労しない。ライフハックだ? 欧米かっ。

私はほんのちょっとの時間、ただひとりでもつ焼き食いながらビールが飲みたかっただけなのだ。そうなのだ。

息子が寝静まったのを確認してから、私はベッドであおむけになり、でっかいため息をひとつふう、とついたらだいぶ落ち着きました。