ZOROPPE

いつもじぶんにごくろうさん

パパの愛読書

休日の昼下がり、ソファでうたた寝をしていると、息子が「パパの(コレ)あい!」と言って、カバーの付いた文庫本を持って寄こしてきた。

息子はソファをよじ登って、仰向けの私の腹の上で同じような態勢になると、その本を読んでくれとせがむ。いつも自分のお気に入りの絵本を持ってきてはそうするのだ。

文庫本を開くと息子が読めるはずもない小さな文字だらけだ。

私はふふっと笑って「おまえ、これ読みたいのか?」と聞くと息子は「うん」と言う。妻は台所で皿なぞを洗いながら「パパになに読んでもらうのー?」と鼻歌交じりに息子に尋ねるので、私はその本の冒頭を大きな声で朗読してやった。

……パンパンに朝勃ちした硬い竿に指で無理矢理角度をつけ、腰を引いて便器に大量の尿を放ったのちには、そのまま傍らの流し台で思いきりよく顔でも洗ってしまえばよいものを、彼はそこを素通りして自室に戻ると、敷布団代わりのタオルケットの上に再び身を倒して腹這いとなる。



パンパンに朝勃ちした硬い竿に指で……のあたりで妻は「パパやめてー!」という悲鳴のような声をあげていたが、かまわずさらに大声で読み上げる私の戯れに息子も嬉々とした表情だった。

なんてものを読んでるの! となじるように問い詰めてくる妻に、私は「失礼な! れっきとした芥川賞受賞作だぞ!」 と返すと、妻は「このごろ夜中にベッドでこそこそとなにを読んでるのかと思えば、こんな……」と私の愛読書をエロ小説扱いし、まるでそれをオカズにして汚らわしいことでもしているかの口ぶりでその本を取り上げようとしたのである。

この妻の言動に、根が人一倍負けず嫌いにできている私は、たまらず本のカバーをめくって表紙を妻の顔面に強く押し付けながら「おい、ここにちゃんと芥川賞受賞作って書いてあるだろ? 近々、森山未來主演で映画化までされる西村賢太先生の代表作だぞ。それから言っておくけど、あいにく僕はそういうのは本ではしないんだ。文章を読みながら想像でする手淫は知的で健康的だとは聞くけれど、僕はもっぱら動画派でね。xvideos.comの日本人の動画ならたいがい観たね。最近は音市美音ちゃんがお気に入りだよ。微乳だけど控えめな喘ぎ声が素人っぽくてたまらないんだ。そこいらへんの整形顔のアイドルよりよっぽど可愛い子が、騎乗位でガンガン腰振って潮噴いたりするんだぜ。だいたい君が潮を噴いたことがあるかい? ないだろ? 潮も噴けない雌豚が知ったような口聞くんじゃねえ! わかったか!この四十路手前女が!」

……と、くだんの著作シリーズの主人公であればそう罵って妻の顔に痰のひとつでもほき捨てたところであろう。

しかし実際には、妻の「なんか最近よく聞く作家だけど、きっと最低なひとだね……」という言葉に、私はなにも言い返すことができずにしゅんとなり、もしかすると妻子が寝静まったあとエロ動画を観ていることがバレているかもしれないな、もう少しファブリーズ多めにしゅっしゅしようと反省しながら、もうすぐ二歳になる息子にワンワンの本を読んであげました。

苦役列車 (新潮文庫)
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西村 賢太
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