ドラマ「母の傘」
○実家・玄関(朝)
外は雨——
俺「(傘立てから選びながら)あまってる傘、ある?」
母「昨日貸した、母さんの、使いなよ」
俺「(笑って)名前、書いてあるやつ?」
母「だって高いんだよ、これ」
俺「でも名前書くことないじゃん」
母「書いてないよ。テプラだよ」
俺「同じだよ」
母「……じゃあ、はがせばいいじゃん」
俺「いいよ……せっかく貼ってあるのに……」
母「じゃあ違うの持ってけよ、カッコ悪いんだろ?」
俺「別にいいよ……傘にカッコいいも悪いもないよ」
と、柄のところにテプラが貼られた母の傘を持つ俺。
母「……」
俺「……いってきます」
母「……いってらっしゃい」
○電車内(朝)
混雑している車内、おしくらまんじゅうの様相。
俺がいる。
俺の手には、テプラが貼られた母の傘——
○実家・居間(朝)
テレビのCS時代劇チャンネルを見ている母。
そばには息子を抱いた妻もいる。
母「(テレビ画面の)田村高廣ってもう死んだっけ……?」
妻「(テレビ見て)さあ、どうでしたっけね……」
母「ワタシは、正和よりこっちの方が好きだけどなー……」
妻「(息子をあやしながら)へー……」
○駅(朝)
電車から降りてくる俺、傘をふと見る——
俺「!」
傘の柄のテプラ——
いつのまにか剥がれてなくなっていた。
俺「……」
○実家・居間(朝)
あいかわらずテレビを見ている母と嫁。
嫁「(息子をあやしている)……」
母「(テレビ見ながら)最近、みんな、死ぬよなあ……」
完